第五話 リヴァイアサンの系譜
国立天文台岡山天体物理観測所で50年以上の長きに渡り、活躍していた望遠鏡があります。
口径は74インチ(188 cm)の反射望遠鏡です(図6)。
第一話で紹介したロス卿の望遠鏡リヴァイアサンより口径が 5 cmだけ大きな反射望遠鏡です。双子というか、兄弟のような望遠鏡です。
図6 国立天文台岡山天体物理観測所で活躍していた口径74インチ(188 cm)の反射望遠鏡。この望遠鏡の架台はイギリス式と呼ばれる赤道儀になっています。
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じつは、この岡山の望遠鏡はロス卿と繋がりがあるのです。制作したメーカーはグラップ・パーソンズ(Sir Howard Grubb, Parsons and Co. Ltd )という光学メーカーです。英国のニューカッスル・アポン・タインを拠点として、望遠鏡や双眼鏡の制作・販売を行なっていました。
もともとはダブリンで産声をあげたグラッブ望遠鏡商会という名前の会社ですが、設立は1833年まで遡ります。この会社の設立当初は、ロス卿とは無縁でした。しかし、1925年に転機が訪れます。ロス卿の息子であるチャールズ・アルジャーノン・パーソンズがこのメーカーを買収したのです。そのため、社名はグラップ・パーソンズに変更となりました。岡山天体物理観測所の望遠鏡はこの会社が制作したものなのです。
岡山天体物理観測所が開所したのは昭和35年(1960年)のことです。観測は2年後の昭和37年(1962年)に開始されました。開所当時は世界第7位の大きさを誇る大望遠鏡でした。運用以来、半世紀上に渡って日本の光学天文学の発展に寄与してきましたが、現在では引退しています。
望遠鏡は大型化の一途を辿ってきていますが、岡山天体物理観測所の口径74インチ(188 cm)の反射望遠鏡は私の故郷のような望遠鏡です。何しろ、私の博士論文では、この望遠鏡を使って取得した銀河の分光観測データが使われたからです。今では、懐かしい思い出です。
おわり
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