第四話 ワカンナイ45分

 今回の主人公はミュージシャンの井上陽水です。陽水の名曲の一つに『ワカンナイ』があります。この歌は賢治の『雨ニモマケズ』へのアンサーソングです。「デクノボーと呼ばれてもよいですか?」こう問いかけるこの一曲だけで、陽水が賢治の作品に大きな関心を持っていたことがわかります。

 ところで、『雨ニモマケズ』へのアンサーソングのタイトルが、なぜ『ワカンナイ』なのでしょうか? 確かに陽水は歌の中で“賢治の時代がわからない”とは言っています。しかし、なんとなく割り切れない気持ちを持っていました。そんな、ある日、賢治の童話『種山ケ原』を読んでいたら、面白い言葉に出くわしました。それは“わがんなぃ”という言葉です。“わがんなぃ”は“わかんない”を岩手弁で言ったものです。

なるほど、陽水は『種山ケ原』を読んで、この言葉を気に入ったのだろうか? そう思った次第です。

 さて、井上陽水の歌の中に、一つ気になる歌があります。それは『背中まで45分』という歌です。男女がホテルのロビーで出会います。そして、男性の手が女性の背中に触れるまでの時間が45分。そういう歌なのです。ここでの疑問は「なぜ45分なのか?」ということです。いかにも中途半端な時間です。

 しかし、またまた思いつきました。『銀河鉄道の夜』の終わりに起こった悲しい出来事を振り返ってみましょう。

 

・・・俄かにカムパネルラのお父さんがきっぱり云ひました。

「もう、駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」

『【新】校本 宮澤賢治全集』第十一巻 短歌・短唱 本文篇、170頁(筑摩書房、1996年))

 

なんと、この文章の中に“四十五分”が出てくるのです。

 じつは、もう一つ気になる歌があります。それは『御免』です。知り合いが自宅を訪れてくれました。

しかし、もてなすものが何もありません。そこで、ごめんなさいというわけです。歌のモチーフとしては

かなり奇妙な感じがします。

そこで、また賢治です。賢治の書いた手紙の中に、次のようなものがあります。

 

不12 〔日付不明〕 沢里武治あて 封書 〔封筒なし〕

 

先日は折角訪ねて下さったのに病后何かにうちへも遠慮で録なおもてなしもせずまことに済みませんでした。・・・

『【新】校本 宮澤賢治全集』第十四巻 短歌・短唱 本文篇、464頁(筑摩書房、1996年))

 

なるほど、“御免”です。さすがに、これは考えすぎでしょうか。

図5 宮沢賢治をフィーチャーした“デクノボーこけし”。宮沢賢治記念館前にある“工房 木偶乃坊”で、15年ぐらい前に購入したもの。